「黄泉がえり」今頃読了。

 そろそろブーム(あったのか?)も去ったか。梶尾真治氏作で今春映画化された「黄泉がえり」読了。ラストの部分では映画版のテーマソングRUIのCD「月のしずく」かけまくり。
 最初に書いておくと自分はSF者でカジシンファンで、映画版を先に見たためもあって、映画版「黄泉がえり」にも好意的。(っていうか、映画版で3回くらい泣いた。)で、カジシン作の小説「黄泉がえり」だが、これは原作という言い方はふさわしくないと思う。
 映画は「映画版」、小説は「小説版」。それぞれシェアードワールド的な平行世界の物語として考えるのがふさわしいようだ。たとえば小説版にはRUIは出てこないが、マーチンという、たぶんRUIの発想の原点になったと思われる人物は出てくる。映画版は多少リリカルでファンタジーで恋愛もの的傾向で、つまり、主演のSMAP草ナギ氏の主たるファン層に合わせたと思われるストーリーになっているが、ラストのどんでん返しとかこれがなかなかカジシンの書く話の面白さのツボを押さえていると思う。
 小説版は言うまでもなく、カジシンらしい話なので、SF者にはもちろんのこと、映画版が感傷的でダメだったという方にもおすすめ。小説版は1999年4月から翌2000年4月までに熊本日日新聞の土曜版に連載されたらしい。ああ、リアルタイムで読みたかった!! 物語の時間設定もちょうど連載時期だし、この頃は、あのノストラダムスの大予言(1999年7月に地球が滅びる)もあって、この世紀末っぽい世界観の物語を読みすすめていくには最高の空気だったろうなあ、と。舞台はカジシン在住の熊本で、地名などもかなり現実に近いものがあるようだ。描かれている死者がよみがえるという現象は、もちろんフィクションでしかありえないのだが、その現象への人々の対応の仕方が非常にリアルだと思う。というか、むしろ、非現実な現象と向き合っていく普通の人々の生活の様だとか、心の動きを、おそらくカジシンは描きたかったのではないかな。普通の人たちが、ちゃんと活躍している話だ。
 謎の生命体(?)を描いた部分のフォントが、話の進行に合わせて変化していくのだがそれがあたかも、人間と同化していく様を見ているようでこれがまた気が利いているな(ちなみに新潮文庫版)。基本的にハッピーエンドなのだが、苦さも含んだハッピーエンドというところが、またカジシンらしくて良い。
 タイトルはホラーっぽく、映画版はファンタジー色が強く、小説版の裏には「リアルホラー」と紹介されているが、私は、まちがいなくSFだと思った。ただ、SFでは売れないだろうからな、今の時代(嘆)。
 私の結論としては、SFに縁のない人にも勧められる良質なSFだと。
 ちなみに小説版でも3箇所ほど涙ぐむ場面があった。